大判例

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東京高等裁判所 昭和39年(ネ)418号 判決

(証拠)を綜合すれば、次の事実を認めることができる。すなわち、本件根抵当権設定契約が締結された当時、控訴人張は、東京都から賃借していた日本橋兜町二丁目五五番の二宅地三七坪三合二勺の上に、(イ)、木造瓦葺二階建店舖兼居宅建坪一五坪、二階一五坪の建物と、右建物の向つて右側(北側)にこれと隣接する建坪約一四坪位の木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建店舖とを所有していたが、右二個の建物は別紙第二図面(A)(省略)記載のような状況で存在していた。(イ)の建物は、昭和二七年九月一三日、家屋番号兜町五五番の六、木造瓦葺平家建店舖兼居宅建坪一〇坪五合として同控訴人名義に保存登記されていたものであるが、同控訴人において同年一〇月頃増築した結果、前記の如き構造坪数の建物となつたが、右増築による表示変更の登記はされないままになつていた。(ロ)の建物は、昭和二二年九月一六日訴外林為春名義に家屋番号同町七三番、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建店舖建坪一八坪として保存登記されていたものであるが、控訴人張においてこれを買い受け、同年一二月一日同控訴人名義に所有権移転登記が経由され、昭和二五年三月一八日訴外株式会社東海銀行のため債権極度額を金七〇〇万円とする第一順位の根抵当権設定登記がなされた。本件根抵当権設定契約および代物弁済予約は、右(イ)の建物を目的としてなされたが、(イ)と(ロ)の建物はあたかも一個の建物であるかの外観を呈していたことから、(イ)の建物につき昭和二八年二月一二日受付を以て木造瓦葺二階建店舖兼居宅、建坪二八坪一合五勺、二階一五坪とする表示変更の登記が誤つて経由された上、本件根抵当権の設定登記ならびに代物弁済予約による所有権移転請求権保全の仮登記がなされるに至つた。しかるところ、控訴人張は、昭和二九年一一月頃(ロ)の建物を取り毀ち、昭和三〇年三月頃までにその敷地跡に、(イ)の建物に接して半地下室(一部は地下室)一八坪九合九勺、一階一八坪四合四勺、二階一八坪四合四勺、屋階三坪を築造した。被控訴人の申請により東京地方裁判所が昭和三〇年一二月五日付でなした後記認定の仮処分決定に基づいて、翌六日(イ)の建物につき同控訴人の譲渡、質権抵当権賃借権の設定その他一切の処分を禁止する旨の登記が経由され、次いで、被控訴人は、前記新に築造された部分は、従前の建場である(イ)の建物の増築部分で、(イ)の建物と一体をなすものとし、前記仮処分の債務者である控訴人張に代位して表示変更の登記を申請した結果、同月二七日受付を以て、(イ)の建物につき別紙目録記載のとおりの構造、坪数に変更登記がなされ、これに伴い家屋台帳の上においても、右のように修正の登録がなされた。甲第五号証の三、四、甲第六、第七号証、甲第三一、第三二号証の各一、甲第三三号証、甲第四七号証の各記載中、前記認定の趣旨に抵触する部分は、いずれも措信しがたく、その他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

被控訴人は、右新たな築造部分は、従前の建物である旧二階建部分についてなされた増築部分で、従前の建物と一体をなし、全体とし一個の建物を構成しているものである旨主張するに対し、控訴人らはこれを争い、右新たな築造部分は、従前の建物とは別個独立の建物である旨主張するので、この点について判断する。

(証拠)を綜合すると、次の事実を認めることができる。

(1)、新たに築造された地下室の一部は、従前の建物の敷地下では純然たる地下室となつているが、その余の部分は半地下式に築造されているため、新たな築造部分の一階および二階の各床は、従前の建物の一階および二階の床よりも、それぞれ三尺余つづ高く、新たな築造部分の屋根も従前の建物の屋根よりも一段と高く、構造されている。新たな築造部分の屋根は、銅板をもつて葺かれ、平面的な形で、表側から裏側にゆるやかに傾斜しているが、従前の屋根は、セメント瓦葺で山形をなして左右に傾斜している。新たな築造部分の地上部分は、その表側において、従前の建物より約一尺ばかり後退して構築されていて、その表側には、従前の建物とは別個の出入口も設けられている。新たな築造部分と従前の建物とが接する部分は、その表側のみならず裏側においても、それぞれ別個の柱が使用されており、その状況は外部からでも容易に現認できるようになつている。右のように、新たな築造部分の地上部分と従前の建物とは、あたかも別個独立の建物としての外観を呈している。

(2)、新たに築造された地上部分は、従前の建物に極めて近接して築造されてはいるけれども、新旧両部の接する側においても、新たな築造部分の一階の一部が幅約三間に亘つて従前の建物の二階廊下の下の空間に約三尺凸凹型に突き出ている個所が共通の壁であるほかは、相互に別個の柱と壁があり、また新旧の柱と柱との間には、少なくとも一寸以上の間隔が保たれている。地下室の、新、旧両部分の境の下に当る地点に、円周約一尺二寸の鉄柱一本が設けられているが、右鉄柱は、半地下室の天井と新たな築造部分の一階の床とを支えているものであつて、従前の建物は右鉄柱によつて支えられていない。屋階三坪は、新たな築造部分の二階の上の表側に設けられており、従前の建物とは接着していないが、これに昇降する階段が、後記の如く、従前の建物の二階から昇降するよう改造されたため、右屋階の南側の一部が、従前の建物の屋根上の空間に突き出している。

(3)、従前の建物の表出入口から、北側の壁に沿つて、その二階に通ずる階段があり、右階段の昇り口附近に半地下室に通ずる縦約三尺五寸、横約二尺の扉が、右階段の中段あたりに、新たな築造部分の一階に通ずるための縦約五尺四寸、横約二尺の引戸が設けられているが、右扉から半地下室への出入は、身をかがめてようやくなし得られるもので、右引戸から新たな築造部分の一階への出入も、附近の柱につかまつてしなければ、足を踏み外す危険がないとはいえない状態である。右扉および引戸のほかには、従前の建物と新たな築造部分の一階または地下室を連絡する通路はなく、従前の建物の二階と新たな築造部分の二階とは別個の壁によつて全く隔離されていて、相互に出入する通路はなにも設けられていない。屋階には、築造当時は新たな築造部分の二階から昇降する階段が設けられていたが、昭和三一年一月頃控訴人張においてこれを取りはずし、従前の建物の二階北東隅から昇降できるよう階段を設けた。また新たな築造部分には、一階から二階または地下室に通ずる階段があるのみならず、便所はもちろん、電気、ガス、水道の設備も別個に設けられているため、従前の建物とは関係なく、それ自体別個の建物として利用することができる。

(4)、従前の建物は、一、二階を合せて延べ三〇坪であるに反し、新たな築造部分は、前記の如く、地階一八坪九合九勺、一、二階各一八坪四合四勺、屋階三坪で、延べ五八坪余であつて、地下室は、天井を除き鉄筋コンクリートで築造されている。その建設費用として、控訴人張は合計金七〇〇万円余を投じた。

(5)、同控訴人は、新たな築造部分の建築につき、昭和二九年一一月頃東京都中央区役所を通じて、東京都建築局に対し、新築建物としての建築確認の申請手続をなしたが、建築基準法に定める基準に合致しない点があつたため、建築確認を受けることができなかつた。

(6)、被控訴人は、本件訴訟提起に先だち、控訴人両名を債務者として東京地方裁判所に対し、旧建物および新たな築造部分について占有移転禁止等の仮処分を申請し、(同裁判所昭和三〇年(ヨ)第七、一九七号)、同裁判所は被控訴人の申請を容れ昭和三〇年一二月五日「控訴人らの右建物に対する占有を解いて被控訴人の委任する執行吏にその保管を命ずる。執行吏は、その現状を変更しないことを条件として、控訴人らに対しその占有部分の使用を許さなければならない。控訴人らは、その占有を他人に移転し、または占有名義を変更してはならないし、建物について模様替工事をしてはならない。控訴人張仁健は、右建物につき譲渡、質権抵当権賃借権の設定その他一切の処分をしてはならない。」旨の仮処分決定をなし、東京地方裁判所執行吏代理林芳助は同月七日右仮処分決定に基づいてその執行をなした。右執行当時、新たな築造部分は、控訴人株式会社三陽においてレストランとして使用し、旧建物の一階の床は全部板張りで、その表側の左隅の約一坪は訴外加藤隆之が事務室として使用し、その余の部分は控訴人張仁健が事務室として使用し、二階の表側六坪は控訴人らの使用人の休憩室兼寝室として使用されており、その奥の六坪は被控訴人において使用していた。

(7)、しかるところ、控訴人張仁健は、昭和三二年一二月一五日頃新たな築造部分を訴外小林圧司に賃貸し、同訴外人においてレストランを経営していたが、昭和三五年一月頃その返還を受け、同年二月初め頃その二階を訴外六邦実業株式会社に賃貸し、昭和三六年一二月頃から昭和三七年一〇月初め頃まで新たな築造部分の一階、二階および地下室を訴外岡三証券株式会社および岡三興業株式会社に、昭和三八年七月一日頃から同年一二月末頃まで右二階を現場事務所として訴外清水建設株式会社に、それぞれ賃貸した。岡三証券株式会社および岡三興業株式会社は、右借受直後から昭和三七年一月初め頃までの間に、地下室の床板を取り替え、地下室階段および一階階段の各入口にベニヤ板張りのドアーを設け、一階および二階の各便所の入口のドアーの修理のほか、各階の天井、壁の全面塗装などを施して事務室に模様替えした。また、控訴人張は、昭和三五年六月頃旧建物の一階の奥を六畳の部室に仕切り、同年一一月頃右一階の表側にカウンターなどを設けて内部を喫茶店風に改装し、同年一二月末頃から喫茶店営業を始め、昭和三九年一二月頃旧建物の入口扉を改造すると共に、旧建物について電力配線の取替工事をなし、昭和四〇年六月頃旧建物の一階の床をコンクリート敷にした。

他に右認定を覆えすに足るなんらの証拠もない。

上記(6)及び(7)各認定のように、控訴人張仁健は本件建物について、現状不変更の仮処分命令に違反して、改装もしくは改築工事をなしているが、右は仮処分命令の債権者である被控訴人に対しては主張できないものといわなければならない。したがつて、本件の両建物が一個の建物であるか、或は別個の建物であるかを判断するについては、仮処分命令に違反してなされた諸工事を考慮に入れて判断すべきでないのはもちろんである。しかも、右諸工事は上記(6)及び(7)で認定したように、新たな築造部分と旧建物の双方の内部において、それぞれ工事が施行されたに止まり、両者の構造自体、もしくは両者の構造自体の接続関係を根本的に変更するような改造工事ではなかつたことは、上記判示自体からも十分認められるところである。

したがつて、右のような趣旨で、上記認定の(1)ないし(5)の諸事実から考えると、前記新たな築造部分は、その構築当時はもちろん、現在においても、従前の建物に附加して、これと一体をなしているものではなく、従前の建物とは別個独立の建物を構成しているものと認めるのが相当である。もつとも、前記各認定したところによれば、使用の方法によつては、両建物が部分的には一個の建物として使用することができ、また時にはそのように使用されていた場合のあることを窺い得ないでもないが、それだからといつて、そのことから、構造上別個の建物が逆に一個の建物であると断定することもできない。

また、家屋台帳および建物登記簿上においては、前記認定のとおり、新たな築造部分が従前の建物と一体となつて一個の建物を構成するものとして、別紙目録記載のとおりの構造坪数で登録、登記されてはいるけれども、右登録、登記は、いずれも控訴人張仁健の意思によつたものではなく、被控訴人が権利保全のため同控訴人に代位してなしたものに係ることは、既に認定したところにより明らかであるから、右のような登録、登記のあることは、前記判断の妨げとなすに足らない。したがつて、控訴人張仁健と訴外会社との間に締結された本件根抵当権および代物弁済予約の効力は、前記新たな築造部分には及ばないといわなければならない。

(村松 江尻 兼築)

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